ぜんぶ欲しくてたまらない。
コウくんのぶっきらぼうさは相変わらずだけど、やっぱり距離が遠い気がする。
手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、届かない。
わたしの2、3歩前を歩くコウくんの背中を見てそう思う。
前なら──中1のあの頃なら、横に並んで歩いていたのに。
もしかしてわたしの気持ちがバレちゃった?
だからこれ以上近づかないように距離を置いているの?
普段からポーカーフェイスのコウくんの気持ちは全然わからない。
「お昼ご飯って何出るのかな?先輩たちの話によると結構美味しいみたいだよ!」
少しでもこっちを見て欲しくて。
わたしの方に振り向いて欲しくて。
そう思って声をかけたのに。
「なんだろね」
やっぱりコウくんはわたしを見てくれない。
「芽依は相変わらず食いしん坊だよね。食べ物の話ばっかり」
見てはくれないけれど、後ろ姿でもフッとコウくんが笑ってくれたのがわかった。
「い、いいじゃん!美味しいもの食べると幸せになれるんだからっ」
「ブタになるよ」
「酷いっ」
そう言われるのはなんだかムカつく。
でも、コウくんが名前を呼んでくれた、笑ってくれた。
わたしが食べ物の話をよくしてたことを覚えていくれた。
それだけで嬉しくて、ムカつく気持ちなんてすぐに吹っ飛んでしまう。