ぜんぶ欲しくてたまらない。
「それがねっ」
握っていた包丁を置いて調理を中断し、ルンルンとリビングにある棚の引き出しを開けるお母さん。
そこから何やらひとつの封筒を取り出した。
「当たっちゃったのよっ」
「当たった?」
「懸賞の海外旅行!でも、二人一組なのよねぇ。わたしとお父さんと……芽依は連れて行けないしって悩んでたんだけど、芽依が航大くんと一緒に住んでくれたら安心でしょう?」
「そんな、急すぎるよ!」
コウくんと一緒に居られるのは嬉しいよ。
でも隣に居たり話したりするのと、一緒に住むのとは訳が違う。
ご飯も一緒、寝るのも同じ家、朝起きたらコウくんがいる。
そんなの、心臓が持たないよ。
「そうよね。明日からだから飛行機とホテルの手配が大変だったんだけど無事取れたのよ。だから安心して?それに、航大くんと久しぶりのお泊まりなんて楽しそうでしょ?」
「……っ、お母さん!そうじゃなくて……」
だめだ、天然なお母さんには話が通じない。
呑気に明日からお泊まりの準備しておくのよって。
久しぶりのお泊まりが楽しそうって言うけど、もうわたしたちはあの頃みたいな小さな子どもじゃないんだよ。