ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

……こんな目、見たことない。

なんだか落ち着かなくて、わたしは視線を彷徨わせた。


おーちゃんの豹変っぷりに戸惑っていると、掴まれた腕を引き寄せられて、視界がぐるりと反転した。

衝撃を覚悟して咄嗟に目をつむる。
けれど襲ってきたのは、柔らかいものに背中が沈む感覚だった。


「愛花」


少し掠れた低い声に、ふる、と身体が震えた。

恐る恐る目を開けると、ソファに押し付けられたわたしの上に、真っ直ぐにこちらを見下ろすおーちゃんがいた。


なに。
なにこれ。


バク、バク、バク——、とすごい勢いで加速していく鼓動が苦しくて、思わず涙ぐむ。

おーちゃんの骨ばった指が、ゆっくりとわたしへと伸びてきて——、


「いたぁっ!?」


おでこにパチッと衝撃を受けて、わたしは声を上げた。

……でこぴんされた!
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