ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
なにやら言いにくそうに、康晴は人差し指で鼻の下をこすった。
「あー……、なんか、デレデレした顔で3年の先輩に写真せまってた」
デレデレ……。
わたしは美月の緩みきった顔を思い浮かべる。
お気に入りの先輩がいたなんて話、わたし、聞いたことないけど……。
……次に会ったときに、問い詰めなきゃだ。
「美月ってば……急いでるわけじゃないんだし、なにも康晴に頼むことないのに」
「いいっていいって」
「みんな集まってるけど……。こっち来てよかったの?」
グラウンドの端に、白組団員が集まっているのが見えた。
「へーき。みんな負けて落ち込んでる団長慰めるのに夢中だったから、抜け出してきた」
「ちょ、だめじゃん。ちゃんと慰めてあげなきゃ」
団長の大きな背中が小さくなっているのを想像して、つい顔がほころんでしまった。
3年生にとっては最後の体育祭だもんね。
勝てなくて、残念だったな……。
話したこともないけれど、白組の一員として、ちょっぴりもどかしい気持ちが生まれる。