ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……お前、歩けんの?」
まじまじと聞かれて、わたしは試しに、慎重にベッドから立ち上がった。
「うん、ゆっくりなら大丈夫だと思う」
正直ちょっと痛いけど、家までなら頑張れそうだ。
電車で座れますように……。
この足で立ったまま揺れに耐えたときの痛みを想像して、背中がゾワリとした。
「俺、送るよ」
「え……そんな、いいよ。ひとりで帰れるよ」
半ば反射的に遠慮すると、康晴の顔がム、となる。
「いいから、送る。着替えてくるから、帰るのちょっと待ってて」
「いいってば」
「なんだよ。転んだときに笑ってくれるやつがいないと、お前、恥ずかしいだろ」
「転ばないもん……ていうか、そこは助けてよ」
「わかったわかった、助けてやるから。……な、待ってろよ」
強引に言われて、わたしはしぶしぶ首を縦に振った。
そんなわたしを見て、康晴は満足げに保健室を後にする。
……ほんと、優しいんだから。
康晴の気遣いに感謝しながら、ベッドに腰を下ろしたとき、コンコン、と扉を叩く音がした。