ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「おい! どういうことだよ樫葉ぁっ」
突然後ろから飛んできた声と衝撃によって、俺の指は、本来の目的であったボタンの、ひとつ隣のボタンに触れてしまっていた。
ガコン、と目の前の自動販売機が音を立てる。
取り出した缶に表記された『ミルクたっぷり』の文字に、顔をしかめた。
そんな俺の地味にショックな出来事に気づきもしない萩原は、背中にひっついたまま、耳元に口を寄せてくる。
「お前、いつの間に彼女と同棲してたんだよ」
投げかけられた質問に、俺の額の皮がさらに縮まった。
「……は?」
「ったく。やることやってるなら俺にそう言えよなあ、水臭い」
「ちょっと待て。……なんの話」
手のひらを見せて制止すると、萩原はムフフ、という擬音が似合いそうな笑顔を作った。