ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

疑いの眼差しをじっと送り続けると、萩原はもじもじと人差し指の先っぽをつつき合う。

やがて、下唇を突き出したまま、とうとう白状した。


「だって、お前、わりと早い段階でヘラヘラしだしてたから……。杉本さんの健気なアピールに俺、心動かされちゃってさあ……協力してあげたくなっちゃって。樫葉をひとりで帰らせるの心配だったし、彼女いなしいし、一石二鳥……的な?」

「余計なことを」


うんざりと言うと、萩原はしゅんと肩を落とした。


「その通りです……。知らなかったとはいえ、お前にも杉本さんにも悪いことしたなあ……あと、彼女さんにも」

「……」


——彼女。


杉本さんにそう思われるように仕向けたのは自分だけれど、萩原にまでそう認識されている状況に、俺は少しだけ不安を覚えた。

しっかりと隔てていたはずの壁が、ぐらぐらと揺れ出す。

想いをせき止めているものが、脆く崩れやすくなってしまったような気がした。
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