ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
……このままだと、よくないよな。
自信が揺らいで、気づけば、口をついて出ていた。
「……彼女じゃないよ」
俺は、そっと目を伏せる。
「家にいるの、妹だから」
外に出た言葉は、まるで言い聞かせるような、抑揚のないものとなった。
耳に届いた自分の声が、ぐらぐら揺れていた壁を補っていく。
「……妹? お前、妹いたの」
「言ってなかったっけ」
「言われてない」
隣の萩原から、なあんだ、という拍子抜けしたような声がこぼれた。