ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


急いで病院に駆けつけた俺は、ぼんやりと長椅子に座っている愛花の姿を、すぐに見つけることができた。


「——愛花、遅くなってごめん」


病院の廊下は静かで、低い声で話すしかなかった。


「……おーちゃん……」


ゆっくりと顔を上げた愛花は、どこか疲れ切っていた。

向けられる真っ赤になった目が、たくさん涙を流したことを物語っている。


「……わたし、どうしよう」


俺を見るなり、くしゃりと顔を歪ませて。

頼りなく震える声が、痛々しく、今にも消え入りそうだった。


「……お姉ちゃんまでいなくなったら、どうしよう……。わたしがわがまま言ったせいだ……お姉ちゃんばっかり、大変な思いさせちゃって……わたしには、もうお姉ちゃんしかいないのに……。わたし、……ひとりになったら、どうすれば……っ」


スカートを力一杯に握りしめ、ぼろぼろととめどなく涙をこぼす愛花を、俺は思わず抱きしめていた。
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