ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「俺がいるよ」
小さな体を包み込む腕に、しっかりと力を込める。
「……俺がいるから」
苦しいほどに強く抱きしめることで、存在を感じてもらいたかった。
「それに、結花はお前を置いていったりしないよ」
「……ほんと?」
「きっと大丈夫だから。……一緒に、帰りを待とう」
背中に弱々しく回されている手に、すがるようにぎゅっと力がこめられた。
愛花が顔を埋めている胸のあたりが、熱くて仕方がなかった。
——ひとりになんて、俺がさせない。
押し殺した泣き声が、薄暗い廊下に響くのを聞きながら、そう強く思うことを、俺は止められなかった。
その日の帰りに、俺は細い手首を引いて、愛花を自分の部屋へと招き入れた。
結花が帰ってくるまで、俺があいつの代わりを務める。
愛花の、……保護者にならなければ。
そのためには、自分の感情が余計だと思った。