ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
12.甘い熱 side旺太
最もその口から、その声で聞きたかった言葉であって、——また、今は最も聞きたくない言葉でもあった。
目を背け続けてきたはずのそれは、心にすんなりと入り込んできて、俺を満たしていく。
胸元を突き上げるような感覚に苦しくなって、そっと息を吐き出した。
目の前にいる愛花が、ただ愛おしくてたまらなかった。
なにもかも、諦めてしまいたくなった。
今すぐここで抱きしめて、同じ気持ちだと伝えたい。
兄代わりとしてじゃなく、恋人として、こいつのそばに——。
「愛花」
俺はもう一度、愛花の手を取った。
細く小さな手が、弱々しく俺に引かれる光景に、去年の、あの日の出来事が蘇る。
涙を流すその姿が、結花を思って泣きじゃくる姿と重なった。