ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

駅には向かわず、反対方向へと歩く。

小さな公園にたどり着くと、すすり泣く愛花をベンチに座らせた。

幸いなことに、あたりに人気はない。

とりあえず飲み物を買うと、自販機の音がやけに大きく響いた。

お茶を愛花に手渡してから、その隣に腰を下ろす。

コーヒー缶のタブを引っ張りながら、俺はなにから切り出すかを悩んだ。


『愛花ちゃんに意地悪しちゃった』


やっぱり……杉本さんの意地悪とやらが、原因なんだろうか。


「……杉本さんに、なにか言われた?」

「すぎもと、さん」


尋ねると、濡れた目が戸惑ったようにこちらへと向けられた。


……あの人、自分では名乗らなかったのか……。


「今日この近くで会ったって聞いた」


俺がそう付け足すと、誰のことを言っているのか理解したようだった。
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