ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
……わかれよ、バカ。
「迷惑なんかじゃ、ないよ。むしろ……」
愛花の頭を撫でていた手で、キレイな黒髪をすくっては、サラサラと逃していく。
背けていた目を、俺はもう一度愛花へと戻した。
ガキみたいだけど、俺……夢にまで見たんだからさ。
「すげー嬉しい」
ここまで言ったら、……さすがにどういう意味か、わかるだろ。
俺を見上げる愛花の頬が、赤く染まっていく。
潤んだ黒目がちの瞳が、再び涙ぐんで、とてもキレイに見えた。
少し開いていた紅い唇は、短く息を吸い込んでから、きゅっと結ばれた。
目を細めると、愛花の手がゆっくりとこちらへと伸びてくる。
——指先が頬に触れて、ひんやりとした感触に、思わず体が震えた。
「……お前の手、冷たい」