ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……そういえば、ちょっと寒いかも……」
……おいおい。
いったい、何時間あの駅前にいたんだ。
「もう、帰ろう」
すでに残り少なくなっていたコーヒーを、俺は一気に飲み干した。
風邪でも引かれたら大変だと思い、さっさと立ち上がる。
——と、反対にぐいっと引かれた首元に、バランスを崩して、勢いあまってベンチへと手をついた。
俺のネクタイを握りしめている愛花を、その場に閉じ込めるような形となる。
「……びっくりした。今度はなんだよ」
ベンチと俺の間に挟まれて体を小さくしている愛花は、もう一度ネクタイを握り直した。
引かれる力が強まって、さらに距離が縮まった。