ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……苦い……」

「……」


……はい?


一瞬、なんのことかわからなかった。

けれどすぐに、手元の潰れたコーヒー缶を見て、意味を理解する。


……え。

俺の真心こもったキス……、コーヒーの苦さに、持ってかれたんですけど……。


このとき初めて、俺は『ミルクたっぷり』の文字を、心から恋しく思った。
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