ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


***


後ろで、音を立ててドアが閉じられた。

真っ暗になった廊下の電気をつけようと手を伸ばすと、俺の体の前で、愛花が身を縮こまらせる気配がした。

明かりがついた部屋へと、足を踏み入れる。

緊張の一歩だった。


……気を引き締めないとな。


覚悟を決めて廊下を進んでいた俺は、ふと物音のしない後ろを振り返った。

愛花が玄関に立ち尽くしたまま、動いていなかった。


「なにしてんの」


ガチガチに体を固くしている様子がおかしくて、笑ってしまう。

俺の声に、愛花は慌てて動き出した。
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