ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
——一切、手を出さないって、決めてたんだけどな……。
だからといって、あの状況で断れるほど、俺は強くできていない。
まだ、愛花の感触が鮮明に体に残っていて、思い出すたびに、じりじりとした気持ちが俺を支配した。
「妹なんて言わない」「考える」と言ってしまった手前、きっと、今まで通りの距離感ではいられない。
また不安にさせて、今日みたいなことになったら困るから、できるだけ応えたいけど……。
ほどほどにしておかないと、さすがにまずいよな。
決定的なことは避けなければ。
ふたりきりの家で……なんて、自分を止められる自信がない。
俺は力なくその場にへたり込むと、重たい頭をソファに預けて、大きく息を吐き出した。