ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
風呂上がりのサラサラな髪に指を通すと、愛花が心地よさそうに目を細める。
ベッドに片膝を乗せ、距離を詰めた。
ぎし、と軋んだ音が立つのと同時に、愛花がぎゅっと目を瞑るのが視界に映った。
思わずはたと固まる。
——こいつ……。
俺は動揺を隠して、そんな愛花の横を通り過ぎ、その奥に手を伸ばして目覚まし時計に触れた。
素知らぬ顔をしてそれを持ってきて、起床時間をセットしていると、じっと視線が注がれるのを感じる。
「なに。今日はお前、こっちで寝たいの?」
尋ねると、愛花はなにも言わずに、そろそろとベッドから降りた。
その横顔は見るからに不満げだ。
「……キス、されると思った?」
わかっていながらも、俺は首を傾げた。
愛花は、まるで悪戯がバレた子供のように、俺から顔を背ける。
「意地悪」