ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「……そんな警戒すんなよ。もうしないから」


……というか、できるわけない。


さっきできたのは、あれが外だったからだ。

この家に戻ってきたからには、その一線は、越えられない。

布団を敷く愛花の背中がしょんぼりして見えて、少し胸が痛む。

もぞもぞと潜り込む姿を見届けてから、


「……おやすみなさい」

「おやすみ」


パチンと電気を消した。

ベッドに入って目を閉じる。

……ちっとも、眠れる気配がしなかった。

まぶたの裏で、公園での出来事が蘇り、気持ちが休まらない。


……やっぱり、もうちょっと、触れるだけ……。


「……愛花」


俺は布団の中から手を差し伸べて、呼びかけた。
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