ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
薄暗い部屋の中で、愛花の影がこちらを振り返るのがわかった。
「こっち、来れば」
その言葉の意味は、すぐに理解してもらえなかったようだった。
ベッドの空いたスペースをポンポンと叩いたことで、やっと「……行くっ」と元気な返事が返ってきた。
飛びつく勢いでやってくる愛花に、こちらまで浮かれ気分になってしまう。
「可愛いな」
今日だけで、何回そう思っただろう。
ほんと弱いな、俺……。
愛花を抱き寄せると、
「お、おーちゃん、どうしたの」
「ん?」
「すごい変だよ」
「……失礼なやつだな」
そんなこと、自分でもわかってるし……。
「お前が言ったんだろ。女の子扱いしてほしい、って」
「い、言ったけど……」
腕の中で、戸惑うような声がした。
少し熱っぽさのある温もりに、安堵の息と一緒に目を閉じた。