ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
02.ふたりを繋ぐもの
「学校、午前までなんだろ?」
電車の揺れに耐えながら、わたしは隣のおーちゃんを見上げた。
「うん。お昼ごろには終わると思う」
「駅より学校から歩いたほうが近いんだよな……お昼はちょっとすぎるかもしれないけど、待てるか?」
「大丈夫だよ」
「ん。じゃあ、またあとでな」
乗り換えのために、おーちゃんだけが電車を降りる。
小さく手を振ったあと、その後ろ姿は人混みの中へと紛れてしまった。
同時にたくさんの人が乗り込んできて、ドア付近に立っていたわたしは、あっという間に隅に追いやられた。
やっぱり、朝は混むなあ……。
ぎゅうぎゅう詰めの車内に息苦しさを感じながら、ずり落ちそうな鞄の紐を肩に掛け直したときだった。
「小さいと埋もれて大変そうだな」
そんな聞き捨てならないセリフが降ってきたかと思ったら、わたしの周りの空間に少しだけ余裕が生まれる。
近くにいた誰かが、人混みから庇うようにドアに手をついてくれたのだ。
驚いて顔を上げて、……わたしは思わず、体を固くした。
「……し、失礼な。いたって標準だよ」
「そうか? ……まあ、小さいのが可愛いなって、俺は思うけど」
いつの間にか目の前に立っていた康晴に、頬に熱が集まるのを感じた。
先週の告白を鮮明に思い出してしまって、顔を隠すように俯く。
……ものすごく気まずい。
精いっぱいいつも通りを装ったけれど、どこかぎこちない空気が流れた。
お互いにしばらく沈黙が続いて——、
「あー……やっぱ無理」
突然吐き出すように言った康晴は、ガシガシと頭をかいた。