ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……先週のことだけど」
……きた……。
この先ずっと、あの告白の話題を避けられると思っているほど、わたしもバカじゃない。
逃げるように話を終わらせてしまったことを反省して、きちんと返事をする覚悟をしてきたつもりだ。
それでも、まさかこんな朝から、しかも電車の中で話すことになるとは思ってなかったけど……。
なんて考えていたら、
「あれ……なかったことにしていいから」
予想外の言葉に、わたしは目を丸くした。
「お前の気持ちはわかったし、今まで通りにしてほしい」
「え……でも、康晴はそれでいいの?」
「気まずくなるほうが嫌だから」
困ったように微笑んだ康晴を見て、罪悪感に支配される。
けれどその反面、どこかホッとしているのも確かだった。
康晴のことは、友達として大好きで。
だからこそ、前みたいに話せなくなるんじゃないかって、ずっと気がかりだったんだ。
「お前は、まだ俺と友達でいれる?」
伺うような問いに、わたしはコクコク、と全力で頷いた。
「もちろん」
「そっか、……よかった」
もしかしたら、無理をさせてしまっているのかもしれない。
そう思ったけれど、一番の男友達を失わずに済んだことに安堵しながら、わたしは気づかないふりをして、康晴の優しさに甘えてしまうことにした。