ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

「自分の立場だとか、周りの目を気にして、大事な言葉を飲み込んじゃうタイプでしょ。……あの日だって、わたしをきっぱり拒否しなかった。わたしが、職場の先輩だから」


ム、とさらに杉本さんの眉が寄せられた。


「そういうの、余計傷つくんだよ。でも、根っこの部分の優しさからきてることなんだってわかっちゃうから、憎めなくて……もっと苦しい。……それに、はっきり断られるより、ずっとショックだった」

「すいません」


俺は、遮られる前に続けた。


「あの時は本当に、悪かったと思ってます」

「……ごめん。違うの。謝らせたくて言ったわけじゃなくて……」


杉本さんは、言葉を選ぶように言い澱み、少し首を傾けた。


「お節介かもしれないけど」


そして、意を決したように口を開く。


「年頃の女の子にとって、年齢差っていうのは、大きいものだよ」


すぐに愛花とのことを言われているのだと理解した。