ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
バツが悪く、俺は杉本さんの視線から逃れるように、顔を伏せる。
「必死に背伸びしてるのに、樫葉くんまで大人であろうとしたら、愛花ちゃんはもっと背伸びをしなくちゃいけなくて、すごく疲れることになる。もう少し、歩み寄らなくちゃ——」
「俺だって」
痛いところを突かれて、ひどく心が揺さぶられた。
動揺を打ち消すように、やや語尾の高ぶった声が、自然と飛び出してしまう。
「……俺だって、色々考えてるんです」
言ってから、静かな沈黙が俺たちを包み込んだ。
ハッとして顔を上げれば、杉本さんは目を丸くして、俺を見つめている。
……やべ。
強く言いすぎた……。
言葉を失った様子の杉本さんに、すぐに後悔が襲ってきたけれど、
「——なあんだ」
ケロリと吐き出した杉本さんは、ホッと脱力した。
「樫葉くん、怒ることあるんだ」
「……」
「いつも同じような顔しかしないから、びっくりしちゃった」
おかしそうに笑顔を向けられて、調子が狂う。
「……俺、そんな風に思われてたんですか」
「うん。……でもやっぱり、つまんなそうな顔の裏側で、色々考えてんだ」
「いや、……」
だんだんと羞恥を感じてきた俺は、誤魔化すように鼻の頭を掻いた。
「それを樫葉くんの言葉で聞けて、よかった」
清々しいような微笑みを向けられて、ぎこちなく目を逸らす。