ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
——確かに、綺麗な人だよな。
萩原が一目惚れする気持ちもわかるな、なんて考えたとき。
「……ふたりとも、降りないでなにしてんの?」
聞き覚えのある声がした。
気づけば、エレベータはいつの間にか1階に到着していて。
開いた扉の向こうに、萩原が立っていた。
「……あれ。お前、直帰じゃなかったの」
昼食をとった後、そのまま打ち合わせがあるからと別れたことを思い出す。
萩原は片手の紙袋を持ち上げて見せた。
「お土産もらっちゃったから置きに来た。……ていうか、もしかして俺、邪魔した?」
俺の隣にいる杉本さんを見て、萩原の表情に、はは、と乾いた笑いが浮かんだ。
杉本さんがピクリと反応した気配を、密かに感じ取る。
誤解を招いてしまったようで、俺は慌ててエレベーターを降りた。
「……なに言ってんの。それじゃ、お疲れ様です」
杉本さんに向かって、ぺこりと頭を下げた。
出口に向かうまで、後ろから、ふたりの会話が聞こえてくる。
「……杉本さんは、降りないんですか?」
「なんでよ。せっかくタイミング合ったのに、一緒に帰らないの?」
「……かっ、帰る。帰りますっ。帰らないわけない」
ものすごく嬉しそうな萩原の声に、ちらりと振り返ると、閉まりかけの扉から、先ほど俺に向けたものとはまた違う、柔らかな笑顔の杉本さんが見えた。
…………。
なんか、かなり、お似合いじゃん……。
なんとなく嬉しい気持ちになりながら、俺は再び、歩みを進めた。