ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
放課後、おーちゃんからお迎えの連絡がくるまで、わたしはクラスメイトの美月と時間をつぶしていた。
「え〜っ!? こ、こくは——」
ガタッ! と机に身を乗り出して、慌てて美月の口を覆う。
「しーっ! 声が大きいってば」
「あ……ご、ごめん」
ホームルームが終わってから時間が経っていて、教室内の人がまばらであることが救いだった。
美月の大きな声に驚いた何人かに注目されてしまったけど、話の内容にまで興味を持たれることはなかった。
「康晴のやつ、やるじゃんか……」
気を取り直した美月が、さっきより声を落として感心したように言った。
続けて「思ったより早かったな……いや、普通に考えると遅すぎるんだけど……」なんてブツブツ呟いている。
わたしは眉を寄せた。
「もしかして美月、知ってたの?」
「えと、本人から聞いたわけじゃないよ。なんとなく……ていうか、去年は愛花たち、いつも一緒にいたでしょ? 誰でもそう考えるって」
「そういうものかなあ」