ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「おーちゃん……」
「お前の友達なら、もう下りてったよ」
「あ……」
まるで名残惜しそうに、誰もいない廊下に視線を送る愛花の姿に微かな苛立ちが生まれる。
まだ、『康晴』に何か用があるらしかった。
「……わたしがこっちにいるって、よくわかったね」
「あいつに送ってもらったなら、こっちだと思って。……足、怪我したんだって?」
「うん……。康晴と話したの?」
「挨拶程度だけどな」
……あいつと、何かあったんだな。
それがどんなものかはわからないが、前に高校の前であったときから、ふたりの関係に変化があったのは明らかだった。
生まれた苛立ちが、チリチリと音を立てる。
俺は片手を伸ばして玄関に置かれた愛花の荷物を持ち、もう片方で愛花を担ぎ上げた。
きゃっ、という小さな悲鳴と、訴えるように、パタパタと動く手足。
「待って待って! 怖い! 落ちる!」
「落とさねーよ」
誰が落とすか。
俺は愛花の腰に回した腕に力を込めた。
「すぐそこまでは、自分で歩けるってばっ」
「あんま暴れると、ぱんつ見えるよ」
「エッ」