ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
愛花が慌ててスカートを押さえて大人しくなっている隙に、俺はさっさと305号室に移動した。
……なんとなく、あのまま304号室にいさせたくはなかった。
部屋に上がると、荷物と一緒に、小さな体をソファに下ろした。
「……乱暴すぎる……」
「……なに、お姫様抱っこでもして欲しかった?」
向けられた文句に、意地悪く言い返す。
愛花がムッと顔をしかめた。
「……康晴は、してくれたもん」
…………。
……なるほどね……。
愛花の口から告げられた事実に、一度思考が停止する。
「……へえ、よかったじゃん」
なんとか絞り出した返事は、そんな素っ気ないものだった。
愛花の中で、俺と『康晴』とが比較されたことに、少なからずショックを受けた。
自分が今どんな表情をしているのか、考える余裕はなかった。
「足、見せてみ」
動揺を隠しながら、俺は愛花の足に触れた。
ソックスを下ろすと、覗いた皮膚は、赤く腫れ上がっている。