ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



***



マンションから近くのスーパーで弁当コーナーを眺めている途中、松葉杖をつく愛花という新鮮な光景が頭に浮かび、俺はつい呆れた笑いがもれた。


——腫れがひどいとは思ったけど、骨折してたとは……。


病院で下された診断に、ふたり揃って目を丸くしたのがついさっきのこと。

今は片足にギプスをつけた愛花を部屋に残して、昼飯を買いに来ているところだ。


我慢強いのはいいことだけれども、限度ってものがあるよな。

相変わらず、甘え下手なところは仕方ないな……。


俺は適当に弁当を2つ選んだ後に、愛花の好きな食べ物、飲み物を思い出しながら、買い物カゴに足していった。



予定より少し重くなったビニール袋をぶら下げて、マンションへと帰る。

時間も思ったよりも過ぎていた。


……遅い、って怒られそうだな。


けれど、一緒に買っておいた愛花の好きなチョコアイスを見せれば、コロッと機嫌も直るだろう。

特に危機感も覚えずにマンションに戻り、3階へと登る。

ドアノブに手をかけ、ガチャリ、と音を立てて、重たいドアを引いた。

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