ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

パタン、とドアが閉まり、部屋には俺と愛花だけになる。


今すぐにでも振り返り、あいつよりももっと傷ついているはずの愛花の様子を見てやらなきゃいけないのに、できない。

このままだと、なかなか鎮まらない怒りを、愛花にぶつけてしまいそうだった。

無意識の内に握りしめていた拳に気づき、手を開くとビニール袋が音を立てる。

手のひらには、くっきりと爪の跡が残っていた。


……あいつのこと、殴るところだった。


「……その、康晴は」


後ろから、背を向けたままの俺を伺うような愛花の声が聞こえてきた。


「悪気があったわけじゃなくて……わたしが、悪いの……」

「いや」


……それは違うだろ。


どんな流れであの状況に至ったのかは俺にはわからない。

けれど、ふたりがこちらの部屋にいたことから、原因に俺の存在が関与していることは間違いなかった。