ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……俺のせいだな」
『康晴』は、俺を愛花の兄だと思っていた。
それが嘘だったとわかった挙句、愛花が俺の部屋にいたものだから、……。
落ち着きを取り戻すように息を吐き出してから、愛花に近づいた。
「足、大丈夫か」
「……うん……」
廊下に倒れたままだった愛花を抱きかかえて、部屋の中へと連れていく。
乱れた服を改めて目にすると、再び感情が荒れ出しそうだった。
外された胸元のボタンを、止め直そうとして……、俺は、思わず手を止めた。
愛花の細く白い首に残された、ひとつの赤い痕。
それがあいつによって付けられたものだと理解して、鎮まりかけていた怒りが、激しい波のように全身に広がった。
「……おーちゃん?」
不思議そうに、愛花が止まったままの俺の手に触れて——俺は反射的に、手を引っ込めた。
「っ、悪い」
やるせない気持ちとジリジリとした苛立ちが、思考の邪魔をする。
……だめだ。
このままだと本当に、怒りに身を任せてしまいそうだ。