ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「どうしたの……?」
向けられる愛花の目から、俺は顔を背けた。
「……落ち着くまで、ひとりでいたほうがいいだろ」
「え……」
「俺、少し出てくるよ」
このままふたりきりでいるといけない気がして、立ち上がる。
それを引き止めるように、服の裾が引っ張られた。
「待って……っ、行かないで」
すがるような声が、愛花からこぼれる。
「ひとりにしないで」
俺の服を掴む手は、小さく震えていた。
「怖、かった……」
潤んだ瞳が俺を見上げる。
「一緒にいて……。嫌いに、ならないで……」
……嫌いになんて、なるわけないだろ。
違うんだよ。
そうじゃなくて、俺は……。