ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
考えてみれば、中学のころからずっと、男の子をみんな友達としてしか認識してこなかった。
異性として意識するようなこともなかったし、告白されたのだって康晴が初めてだ。
……きっとわたしは、それくらいおーちゃんのことしか見えてないのだと思う。
「でも愛花に好きな人がいたなんて……。今までそんなことひと言も言わなかったじゃん」
「う、うん」
「ずばり誰? わたしの知ってる人? 何年生? どこのクラス?」
「……美月、落ち着いて……」
キラキラと目を輝かせる美月の勢いに、わたしは圧倒されてしまう。
どうやらわたしの好きな人が、この学校の人であると思い込んでるみたいだ。
どう答えていいかわからずうろたえていると、
<ついた。お待たせ>
机の上に置いていた携帯にメッセージが届いた。
——おーちゃんだ。
「お、お迎えきたみたいだから」
チャンスだ! といように美月から逃れると、ひょいと鞄を持って立ち上がった。
美月はちえ、と唇を尖らせて、心底不満げについてくる。
けれど昇降口にたどり着くまでの間も、質問責めはとまらなかった。
迎えにきてくれたその人が好きな人です……だなんて、言えっこないよ。
なんとか上手く誤魔化しながら、わたしはやっとの思いでローファーに履き替えた。
「あれ、お前らもまだいたんだ」
声をかけられて振り返ると、
「お、噂をすればなんとやら」
靴箱を挟んだ向こう側から康晴が顔を出したのを見て、美月はニシシといたずらな笑みを浮かべた。
……タイミング悪い!