ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
こんなことなら、さっさと俺のものにしておけばよかったんだ。
他の誰かが、愛花の体に触れる前に、この手で……。
頭の中が黒い感情でぐちゃぐちゃになって、もう何も考えられない。
今の俺には、年上の余裕なんて、これっぽっちも残されていなかった。
「んんっ……、おー、ちゃん」
唇で唇をこじ開けると、舌を絡め取る合間に、愛花が涙声で俺を呼んだ。
その声が、さらに俺を上擦った心地にさせる。
「おーちゃん、すき」
「——っ」
頭が真っ白になった。
唇をゆっくり離して見下ろすと、肩で息をしている愛花の長いまつ毛が、涙で濡れていた。
「ずっと、好き……」
苦しそうに、助けを求めるように泣きじゃくる愛花の言葉が、俺の胸を締め付けた。
そこから熱いものが流れ出し、喉元へとこみ上げてくる。
肌を刺すような、沁みるような切なさの痛みに、俺まで泣いてしまいそうだった。