ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「お前のこと、本気だったから。結花の見てないうちに……みたいな、ズルいことはしたくなかった」


真摯な言葉が、じんわりと心に沁み渡っていく。


「だから……あいつが目を覚ますまで、俺の気持ちは言わないつもりだった」


沸き上がる喜びに苦しくなって、わたしはおーちゃんの頭を撫でる手を思わず止めてしまった。


「それなのに……」


動きを止めた手に、大きな手が重ねられた。

そのままぎゅっと握られると同時に、おーちゃんが顔を上げた。

ワンピースの襟元を、くい、と引っ張られる。


「こんなの、見せられて。……全部吹っ飛んだ」


……こんなの?


おーちゃんの指が、少し開いたそこから滑り込みわたしの肌を撫でた。

くすぐったさに思わず身をよじる。


「な、何……?」

「キスマーク」

「……え!?」


わたしはほとんど反射的に、触れられた箇所をバッと覆い隠した。

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