ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「おーちゃん」
わたしはうるさい心臓を抑え込みながら、隣を覗き込んだ。
「もう一回、キスして欲しい……」
恥ずかしい気持ちを我慢して、素直におねだりをしてみる。
おーちゃんは一瞬、固まってから、
「……そういうのは、付き合ってからだろ」
「さっきしたもん。……この前も」
「それは」
反論しようと口を開いたみたいだったけれど、結局、すぐに口ごもってしまった。
わたしは諦められずに、ぐ、と身を寄せる。
「明日からちゃんと、我慢する。我慢できるように、最後に……だめ?」
「……お前なあ」
おーちゃんは困ったように眉尻を下げた。
と、長い腕がわたしの肩に回ったと思うと、そのまま引き寄せられて——、