ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……なんなら、教えてやろうか?」
「へ?」
わたしが間抜けな声を上げたと同時に、おーちゃんの手が伸びてくる。
不意に加えられた力に抗うこともできず、わたしの体はベッドへと倒れた。
柔らかい枕の感触が、頭を受け止めてくれる。
横向きに寝転がったわたしを、おーちゃんはベッドに顎をのせるようにして、じっと見つめてきた。
「このベッドでお前と寝てるとき……俺が、どんなことを考えてたか」
顔にかかった髪を退かすように、おーちゃんの手が、ゆっくりとわたしの肌をすべっていく。
「お前に触れる度、どれだけ我慢してたか……」
くすぐったかったけれど、わたしは動けなかった。
熱っぽい瞳に見据えられて、体が固まってしまう。
「本当はお前に、どういうことをしたいか、とか……」
……前にもおーちゃんのこんな目を、見たことがある気がする。
あれは確か、おーちゃんが酔っ払って帰ってきた日、ソファで寝ちゃったときに……。
バクバクバク——、と鼓動がものすごい勢いで加速していく。