ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「——聞きたい?」
ふっと唇のふちに微笑を浮かべられ、その色っぽさに、思わず目眩がした。
——キャパオーバー。
「遠慮しておきます……」
わたしは両手で顔を覆い隠しながら、弱々しく返事をした。
「ん。いい子」
よしよしとあやすように頭を撫でられて、なにも言えなくなってしまう。
「これからはちょっと、俺も自信ないからさ。協力してくれよ」
「協力……?」
「そう。……俺を、悪い大人にしないように」
「……」
ハイ、と大人しく返事をすれば、おーちゃんは優しく布団をかけてくれた。
おやすみ、という囁きとともに、向けられる背中。
ごそごそと布の擦れる音を立てながら、おーちゃんも布団に潜り込んでいった。
「ねえ」
寝転がったおーちゃんに、声をかける。