ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「——聞きたい?」


ふっと唇のふちに微笑を浮かべられ、その色っぽさに、思わず目眩がした。


——キャパオーバー。


「遠慮しておきます……」


わたしは両手で顔を覆い隠しながら、弱々しく返事をした。


「ん。いい子」


よしよしとあやすように頭を撫でられて、なにも言えなくなってしまう。


「これからはちょっと、俺も自信ないからさ。協力してくれよ」

「協力……?」

「そう。……俺を、悪い大人にしないように」

「……」


ハイ、と大人しく返事をすれば、おーちゃんは優しく布団をかけてくれた。

おやすみ、という囁きとともに、向けられる背中。

ごそごそと布の擦れる音を立てながら、おーちゃんも布団に潜り込んでいった。


「ねえ」


寝転がったおーちゃんに、声をかける。

< 300 / 405 >

この作品をシェア

pagetop