ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「じゃ、気をつけてな」
「行ってきます」
校門の前で、タクシーを降りる。
わざわざ付き添ってくれたおーちゃんに、わたしはタクシーが見えなくなるまで手を振った。
慎重に足を運び、昇降口へと向かう。
「……愛花?」
丁度靴を履き替えようとしたとき、ギプスをした足を庇いながらの動きに苦戦していると、誰かに声をかけられた。
顔を上げると、偶然、美月がやってくるところだった。
わたしの状況を理解して、慌てて駆け寄ってきてくれる。
「てっきり休みだと思ってた! 足、大丈夫?」
「なんとか」
支えてもらいながら、あはは、と乾いた笑いを浮かべた。
「先に声かけてくれてたら、待ち合わせて付き添ったのに」
美月はわたしの靴をロッカーにしまい、振り返って——。
「ね、康晴」
と付け足した。