ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


……え。


聞こえた名前に、ギクリと心臓が飛び上がる。

覗くように美月の後ろを確認すれば、たまたま一緒になったのか、康晴が立っていた。


「あ……、おはよう」


ぎこちなく挨拶をしてみるけれど、視線が交わらない。

康晴はそのまま、美月にも返事をすることなく、わたしの横を通り過ぎてしまった。

まるでわたしのことなんか見えていないみたいに去っていく後ろ姿を、呆然と見送る。


「……ちょっと、なにあいつ」


美月が、訝しげに呟くのが聞こえた。


……康晴……。


実際に会ってしまったら、どんな気持ちになるか不安でしょうがなかった。

怖いと思ってしまうかもしれない。

もう友達とは思えないかもしれない。

……そう思ってた。


今みたいに、無視される可能性を考えてなかったわけじゃないけど……。


ぽつんと立ち尽くすわたしを、美月が気遣わしげに覗き込んでくる。


「ね、もしかして一昨日……なにかあった?」


わたしは、こみ上げてくるなにかに、ぎゅっと唇を噛んで耐えた。

突き刺すような痛みを感じて、目が熱くなるのを感じる。

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