ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


……美月には、康晴との間になにがあったかを話せなかった。

どうしても、先に康晴と話しておきたかったんだ。


朝から泣いてしまったわたしに戸惑いながらも、美月はわたしの足を気にして、その日は一日中付き添ってくれた。

放課後になって、「どうしても康晴と話したいことがある」とだけ美月に告げて、ふたりで康晴のクラスへと向かった。

どうやら神様はわたしの味方をしてくれたようで、康晴のクラスのホームルームが長引いて、わたしたちは待ち伏せることができた。

教室の前で、並んで廊下に寄りかかる。


「ごめんね、なにも説明しないままで」

「いいよそんなの。あとでちゃんと、話してくれるんでしょ?」

「もちろん」

「とにかく頑張りなよ」


ニシシ、と笑顔を向けられて、少しだけ勇気づけられる。


……きっとまた、ぷいってされちゃうだろうけど。

なんとかして、康晴を捕まえないと……。


無視される覚悟を決めて、わたしは松葉杖をしっかりと握り直した。

< 308 / 405 >

この作品をシェア

pagetop