ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
……美月には、康晴との間になにがあったかを話せなかった。
どうしても、先に康晴と話しておきたかったんだ。
朝から泣いてしまったわたしに戸惑いながらも、美月はわたしの足を気にして、その日は一日中付き添ってくれた。
放課後になって、「どうしても康晴と話したいことがある」とだけ美月に告げて、ふたりで康晴のクラスへと向かった。
どうやら神様はわたしの味方をしてくれたようで、康晴のクラスのホームルームが長引いて、わたしたちは待ち伏せることができた。
教室の前で、並んで廊下に寄りかかる。
「ごめんね、なにも説明しないままで」
「いいよそんなの。あとでちゃんと、話してくれるんでしょ?」
「もちろん」
「とにかく頑張りなよ」
ニシシ、と笑顔を向けられて、少しだけ勇気づけられる。
……きっとまた、ぷいってされちゃうだろうけど。
なんとかして、康晴を捕まえないと……。
無視される覚悟を決めて、わたしは松葉杖をしっかりと握り直した。