ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
やがて、教室の中が騒がしくなる。
……ホームルームが終わったみたいだ。
ガラリとドアが開かれるのを合図に、生徒たちが次々と出てきた。
「——康晴」
真っ先に見つけて、友達と歩いてくるその姿に呼びかける。
康晴は一瞬だけこちらを見てくれたけれど、すぐにまた友達のほうに向き直ってしまった。
階段のほうへと歩いていく後ろ姿を、おぼつかない足取りで追いかける。
こうも人が多いと、松葉杖を心底邪魔だと感じた。
「康晴、待って……!」
「ちょっと、愛花。あんま急ぐと危ないって」
後ろから追いかけてくる美月の制止に耳を貸さず、わたしは必死に康晴を追いかけた。
階段を降りていく姿を見失わないように、その後に続く。
「待ってってば……っ」
もどかしくて、杖を片方、美月へ押し付けた。
手すりを掴みながら、階段を降りる。
「話が——」
話がある、と言いかけたとき、杖の先が段差から外れて、バランスが崩れた。
やば——! そう思ったときにはもう遅くて、手すりから手が離れる。