ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「——っ」
声にならない声が出た。
想像していた強い衝撃に襲われる前に、わたしは誰かによって抱きとめられた。
背中で、制服を乱暴に、力強く掴まれている感覚に、全身から一気に力が抜けていく。
自分を包み込んでいる体から、ドクドクと大きく脈打つ音を聞きながら、わたしはその人の制服を、しっかりと握り返した。
弾んだ息遣いが、耳元で聞こえる。
「……まじで」
その人は、腕の中にわたしがいることを確認するように回した腕に力を込めると、階段の途中で、わたしごとその場にくずおれた。
「心臓、止まる……」
頭上で聞こえる震えた声に、じわりと涙が滲んだ。
「……ありがとう……」
「……勘弁してよ」
「……うん、ごめん……」
わたしは、助けてくれた康晴に、もう一度「ありがとう」と言った。