ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
ふたりで誰もいない教室に戻ると、康晴はわたしを支え、ゆっくりと椅子まで誘導してくれる。
「……足、痛む?」
「ちょっとだけ」
思い出したようにズキズキと訴えてくる刺激に、わたしは苦笑した。
……康晴を追いかけるのに夢中で、さっきまで痛みなんて気にならなかったんだ。
わたしは椅子に座って、こっそりと康晴の様子を伺った。
まだどこか気まずそうにしているけれど、こうして付いてきてくれたということは、どうやら話を聞いてくれる気にはなったみたいだった。
「……もっと安静にしなきゃ、治りが遅くなるぞ」
「だって、康晴が逃げるから……」
「……そんなの」
康晴は少し躊躇ってから、隣の席に腰を下ろした。
「合わせる顔、ないだろ。普通」
俯いて、力ない笑みを浮かべると、額に手を当てて続けた。
「お前だって、俺の顔なんて見たくないだろうと思って……」
「わたしは」
苦しそうに吐き出された康晴の声に、思わずスカートを握りしめる。
「康晴にちゃんと、謝りたくて」