ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……わたしね、ちょっと前まで、ここに来るのがすごく怖かった」
何かに背中を押されるようにして、ポツリとこぼした。
「お姉ちゃんの目が覚めないこともだけど、……それよりも、わたしのせいで倒れたお姉ちゃんの姿を、この目に入れるのが怖かった。……もし、目を覚ましてくれたとして、そのとき、お姉ちゃんにどんな顔をしておかえりって言えばいいか、わからなかったの」
ずっと感じていた息苦しさ。
その正体が、最近やっとわかった。
お姉ちゃんが目を覚ましたら、無理をさせてしまっていたことを、一番に謝りたい。
だけど……それはまるで、お姉ちゃんにとって、自分の存在が重荷であることを、自分で認めてしまうようで……。
それが悲しくて、情けなくて、苦しかった。
「でも、……おーちゃんのおかげで、後ろ向きな考えじゃなくなった。わたし、今は本当に、心の底からお姉ちゃんの帰りを待ってるよ」
こんなわたしを、おーちゃんは好きでいてくれる。
……そんな自分に、少しだけ自信が持てた。
そして、お姉ちゃんの帰りを、もっと待ち遠しく思えるものにおーちゃんが変えてくれた。
「だから……お姉ちゃん、早く、帰ってきてね」
わたしはお姉ちゃんの手に顔を寄せると、祈るように額をくっつけた。