ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


——いつまででも待てるとは言ったけれど、お互いの想いが通じた上で、今までの関係を保つのは、少し……ううん。

かなり、もどかしい。

本当はもっと……おーちゃんに触れたい。


チラリと横を盗み見ると、おーちゃんの手は、荷物でふさがっている。


……手を繋ぎたいだなんて言ったら、また呆れられるかな。


悶々としながら堪えていると、おーちゃんが不意に荷物を持ち直した。

ビニール袋が擦れる音を聞きながら、そちらに意識が向かないように装っていると、……右手に触れる、肌の感触。

そのまますくうように手を取られて、驚いて顔を上げた。


「手を繋ぐくらい、家族だってするんだろ」

「……うん」


向けられる優しい視線に、わたしの心は簡単にときめいてしまう。

小さく頷いて、おーちゃんの手をきゅっと握り返した。


……もう。

本当に、好きすぎて困る……。


胸を突き抜ける想いに、思わず目を伏せた。

アスファルトに映る繋がったふたつの影を見て、デートの妄想はどこかへ吹っ飛んでしまい、おーちゃんとふたりで行けるならどこだっていいや、と思えた。

< 325 / 405 >

この作品をシェア

pagetop