ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
——いつまででも待てるとは言ったけれど、お互いの想いが通じた上で、今までの関係を保つのは、少し……ううん。
かなり、もどかしい。
本当はもっと……おーちゃんに触れたい。
チラリと横を盗み見ると、おーちゃんの手は、荷物でふさがっている。
……手を繋ぎたいだなんて言ったら、また呆れられるかな。
悶々としながら堪えていると、おーちゃんが不意に荷物を持ち直した。
ビニール袋が擦れる音を聞きながら、そちらに意識が向かないように装っていると、……右手に触れる、肌の感触。
そのまますくうように手を取られて、驚いて顔を上げた。
「手を繋ぐくらい、家族だってするんだろ」
「……うん」
向けられる優しい視線に、わたしの心は簡単にときめいてしまう。
小さく頷いて、おーちゃんの手をきゅっと握り返した。
……もう。
本当に、好きすぎて困る……。
胸を突き抜ける想いに、思わず目を伏せた。
アスファルトに映る繋がったふたつの影を見て、デートの妄想はどこかへ吹っ飛んでしまい、おーちゃんとふたりで行けるならどこだっていいや、と思えた。