ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
目の前の現実を、脳が受け止めることを拒んでいるように、何も考えられなかったし、……どうするのが正解なのかも、わからなかった。
ただ、ぼうっとする頭で、お姉ちゃんの匂いに包まれたこの部屋で、……わたしは、小さい頃のことを思い出していた。
……優しいお姉ちゃん。
その後ろをついて回るわたし。
お姉ちゃんに憧れていたわたし。
そんなお姉ちゃんから譲ってもらった、宝物のウサギのぬいぐるみ——。
そこまで思い出したところで、ひとつの疑問が、わたしの中に生まれた。
フワフワと暗雲のように、薄暗く、頭の中に広がっていく。
——わたしは、いつ、おーちゃんのことを好きになったんだろう。
気持ちの移り変わりは、あまりにも自然だったような気がして、……思い出せない。
わたしの中で、おーちゃんの存在が、当たり前のものになっていって……、好きだと思う気持ちも、当たり前のものだと思って……。
だけど……。