ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


目の前の現実を、脳が受け止めることを拒んでいるように、何も考えられなかったし、……どうするのが正解なのかも、わからなかった。

ただ、ぼうっとする頭で、お姉ちゃんの匂いに包まれたこの部屋で、……わたしは、小さい頃のことを思い出していた。


……優しいお姉ちゃん。

その後ろをついて回るわたし。

お姉ちゃんに憧れていたわたし。

そんなお姉ちゃんから譲ってもらった、宝物のウサギのぬいぐるみ——。


そこまで思い出したところで、ひとつの疑問が、わたしの中に生まれた。

フワフワと暗雲のように、薄暗く、頭の中に広がっていく。


——わたしは、いつ、おーちゃんのことを好きになったんだろう。


気持ちの移り変わりは、あまりにも自然だったような気がして、……思い出せない。

わたしの中で、おーちゃんの存在が、当たり前のものになっていって……、好きだと思う気持ちも、当たり前のものだと思って……。

だけど……。

< 333 / 405 >

この作品をシェア

pagetop