ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


「……泣いてたのか」

「……」

「目、赤い」


おーちゃんの瞳は、心を見透かされてしまいそうなほど深くて、……わたしは、逃げるように目をそらした。

何も答えられず、口をつぐむ。


「……ひとりのときに、泣くなよ。……慰めてやれないだろ」


掴まれている手を優しく引かれて、わたしは、おーちゃんの腕に包まれた。

拗ねたような、困ったような囁きが耳元で聞こえて、目を閉じた。


……おーちゃん……。


あやすように頭を撫でられて、その温もりに、夢心地で身を委ねてしまいたくなる。

そのまま、おーちゃんの背中に手を回そうとして、……わたしは、手を下ろした。


——ここ、お姉ちゃんの部屋……。


そう頭によぎって、咄嗟に身をよじる。

おーちゃんは手を解くと、不思議そうにわたしを覗き込んだ。


「……どうした?」

< 336 / 405 >

この作品をシェア

pagetop