ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……泣いてたのか」
「……」
「目、赤い」
おーちゃんの瞳は、心を見透かされてしまいそうなほど深くて、……わたしは、逃げるように目をそらした。
何も答えられず、口をつぐむ。
「……ひとりのときに、泣くなよ。……慰めてやれないだろ」
掴まれている手を優しく引かれて、わたしは、おーちゃんの腕に包まれた。
拗ねたような、困ったような囁きが耳元で聞こえて、目を閉じた。
……おーちゃん……。
あやすように頭を撫でられて、その温もりに、夢心地で身を委ねてしまいたくなる。
そのまま、おーちゃんの背中に手を回そうとして、……わたしは、手を下ろした。
——ここ、お姉ちゃんの部屋……。
そう頭によぎって、咄嗟に身をよじる。
おーちゃんは手を解くと、不思議そうにわたしを覗き込んだ。
「……どうした?」