ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
18.遠慮とわがまま
「今日は、何食べたい?」
電車の座席から、前に立つおーちゃんを見上げて聞いた。
上から吹いてきた車内の冷風が、わたしの前髪を微かに揺らした。
「んー、……カレー」
まだどこか眠たそうに瞬きながら「最近、暑いし……」と付け足すおーちゃんに、思わずクスリとしてしまう。
「じゃ、決まり」
「チキンがいい」
「はあい」
今日の献立が決まったところで、丁度、おーちゃんが降りる駅に到着した。
窓越しに手を振って、おーちゃんを見送る。
やがて流れ出した景色に、わたしはそのまま、ぼんやりと外を眺めた。