ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


ザワザワと心が波立ち、喉元にせり上がってくる落ち着かない気持ちを飲み込んでから、電話をとった。


「……叔母さん?」


伺うように呼びかけると、携帯の向こうで、小さく息を飲む気配を感じた。


『あ……よかった、愛ちゃん……! 授業中だったのかな、さっきまで、全然繋がらなくて……。いい? 落ち着いて聞いて欲しいの』


わたしの返事を待つことなく、叔母さんは早口で話し出した。

落ち着いて、と言っている叔母さんのほうが、何故かとても焦っているようだった。


『朝、病院から電話があって……結ちゃんの容態が、急変したって……それでね、今、わたしたち、病院にいるんだけど——』


——キーン。

叔母さんの声と一緒に、飛行機が飛ぶときのような音が、頭の中に細く響いた。

思考が霞み、わたしはフラリとよろけて、近くの机に手をついた。


「……大丈夫?」


近くにいたクラスメイトが、心配そうに見つめてくる。

それに反応できないまま、わたしの視点は、虚空を彷徨っていた。

< 346 / 405 >

この作品をシェア

pagetop