ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
ザワザワと心が波立ち、喉元にせり上がってくる落ち着かない気持ちを飲み込んでから、電話をとった。
「……叔母さん?」
伺うように呼びかけると、携帯の向こうで、小さく息を飲む気配を感じた。
『あ……よかった、愛ちゃん……! 授業中だったのかな、さっきまで、全然繋がらなくて……。いい? 落ち着いて聞いて欲しいの』
わたしの返事を待つことなく、叔母さんは早口で話し出した。
落ち着いて、と言っている叔母さんのほうが、何故かとても焦っているようだった。
『朝、病院から電話があって……結ちゃんの容態が、急変したって……それでね、今、わたしたち、病院にいるんだけど——』
——キーン。
叔母さんの声と一緒に、飛行機が飛ぶときのような音が、頭の中に細く響いた。
思考が霞み、わたしはフラリとよろけて、近くの机に手をついた。
「……大丈夫?」
近くにいたクラスメイトが、心配そうに見つめてくる。
それに反応できないまま、わたしの視点は、虚空を彷徨っていた。